ビジネス誌「月刊BOSS」。記事やインタビューなど厳選してお届けします! 運営会社

企業の匠

製造業、サービスを問わず、企業には「◯△の生みの親」、「△◯の達人」と呼ばれる人がいる。
そうした、いわば「匠の技」の数々がこれまで日本経済の強さを支えてきたのだ。日本の競争力低下とともに、そこがいま揺らいでいるという指摘が多いからこそ、各界の匠にスポットを当ててみたいー。

2013年3月号より

「つゆ」に徹底してこだわる?セブン-イレブンのおでん

年間で2億7700万個

セブン-イレブンは、かれこれ40年前になる1974年に第1号店がオープンしているが、コンビニというビジネスモデルを初めて日本に持ってくる上で、生みの親である鈴木敏文氏(セブン&アイ・ホールディングス会長)は、「日本に合った商品政策を取らないとダメだ」と考えた。

久生氏は愛媛県出身で1996年に中途入社し、商品本部での経験は10年以上のキャリア。

その結果店頭に置いたのが、おにぎりでありおでんである。この2アイテムは、いまではあまたあるセブン-イレブンのPB(プライベート・ブランド)商品にあって、原点といってもいい存在だ。

セブン-イレブンのおでんだねの年間販売数量は、実に2億7700万個に上るという(2011年度実績)。当然、商品開発や毎年行われる味のリニューアルには、ヒト、モノ、カネすべてにおいて相当な力を入れてきた。その徹底ぶりは、「主要なおでんだねごとに、たとえば大根や練り物、つゆなど、部会が9つあります。関西と九州には地区部会もあるので、トータルでは11ですね」(セブン-イレブン・ジャパン商品本部FF・惣菜シニアマーチャンダイザーの貴史氏)

意外なことに、1年を通して最もおでんが売れる時期は9月なのだそうだ。
「まだ暑いとはいえ、9月になれば、夕方になると体感温度が下がって、真夏との差を感じます。その時におでんに手が伸びるのです」

鈴木敏文氏は普段から、「消費は心理学で捉えろ」と述べている。9月に最もおでんが売れるというのは、膨大な販売経験値の蓄積から導き出された。だから、同社がおでんのリニューアル内容をリリースするのは毎年真夏の8月だ。

おでん開発の歴史を遡ってみよう。まず、77年に一部の店舗で試験販売を開始し、本格展開し始めたのは79年から。85年には東京におでん専用工場の第1号が誕生し、88年からは店頭用のおでん鍋が導入された。そして、前述のおでん部会の立ち上げが99年からである。

久生氏によると、大きな進化の転機は2002年、それぞれの地域特性に合ったおでんつゆを作るため、調味料工場を立ち上げたことにあるという。それぞれの専門工場でつゆだけを作るのだ。

6地域に分けた出汁の特長は、北海道が、煮干しと宗田かつお節、東北・新潟・長野エリアが、さば節と煮干し、関東・山梨エリアは、かつお節と昆布、東海が、むろ節と牛すじ、北陸・近畿・岡山・広島一部のエリアが、昆布と牛すじと鶏がら、広島一部・山口・九州エリアが、牛すじと鶏とチキンブイヨンになっている。

セブン-イレブンのおでんは、本格販売開始から34年になる。

セブン-イレブンはドミナント戦略が徹底しているため、展開エリアにある至近工場から配送することで、効率面でも鮮度管理という面でも有利だ。

03年には、さらに大きな釜を使った専用工場で出汁を抽出し、かつおと昆布のうま味を向上できたという。圧巻のこだわりはここからだ。07年の変更点はこうだった。従来は、赤道付近で獲れたかつおを現地で凍結し、1カ月から3カ月ほどかけて枕崎港(鹿児島県)に水揚げする。ここで解凍して、かつお節に加工していたのだ。それを、現地で獲れたかつおを冷凍せず、すぐにかつお節にすることにした。かつおのうま味成分は、漁獲後1日ないし2日経過した頃にピークを迎えるため、そのうまみを逃がさないようにしたという。

さらに11年は、かつおの漁法にまで踏み込んだ。
「網で獲ったかつおだと魚体に傷がつき、かつおがストレスを感じてうま味成分が減ることが、計測数字にも表れるんです。そこで、一本釣り漁法で獲ったかつおを使用しました。これによって、うま味成分であるイノシン酸量が豊富で脂肪分が少ないため、透き通った、うま味成分の多いつゆになるのです」

加えて製法でも新機軸を打ち出した。乾燥効率に優れ、鮮度保持が可能な、手火山式焙煎を採用したのだ。従来の一般的な焙煎方法である焼津式よりも手間がかかるため、大量生産はできないが、うま味を多く含むかつお節に仕上がるという。

そして12年。「お客様から飲みやすいとご評価いただいてきたつゆに、さらに磨きをかけた」のが、従来の荒節(かつお独特の風味が強く、力強い味の出汁が抽出できる)に加え、枯節(表面にカビをつけることでうま味成分を引き出したかつお節)を配合したというつゆだ。

“家飲み需要”開拓へ実験

ここまで見てきたように、セブン-イレブンでは一貫しておでんのつゆにこだわり続けてきた。これからもその軸は絶対にぶらさずにやっていくという。一見、地味な取り組みで、可視化という点では弱いが、つゆを飲んでもらえば他のコンビニとの違いは歴然ということなのだろう。いわば、直球ど真ん中の王道というところか。

「学生さんだと、おでんはゆで卵1つで、あとはつゆだくさんで満腹にさせる人もいるらしい」と言うあたりにも、つゆに絶対の自信を持っていることが窺える。

確かに、ほかのコンビニチェーンでは“変化球”が多い。ファミリーマートでは、キムチ味やカレー味などの粉末スープを加えることでつゆの味に変化を与える「ちょい足し」を提案、ローソンでは、焼きおにぎりや煮込みハンバーグといった、意外性のある具材も追加している。ファミマやローソンのような、意表を突いた取り組みをよしとする消費者もいるだろうが、セブン-イレブンは基本的に考え方や方向性が異なるといっていい。せいぜい、元々は九州文化だったという柚子胡椒を薬味に加え、その展開エリアを拡大してきたといった程度のものだ。

もちろん、おでんだねにも毎年改良を加えたり、具材自体を入れ替えることもある。普段から、社員が老舗のおでん屋やおでんを扱う繁盛店に行って食べ、そのリサーチデータを統計数値化し、「今年はこういうものが受け入れられるのでは」という仮説を立て、前年よりかつおの風味を強化したり昆布の配合比率を変えたりするのだ。

12年の具材におけるハイライトは、だし巻きたまごだった。ゆで卵もそうだが専用の卵を使い、「黄身が濃いのはハーブを食べた鶏の卵だから。餌からこだわっているんです」と言う。

1万5000店というスケールメリットも大きいセブン-イレブン。

このほか、定番で通年具材だったつくねやさつま揚げなども2、3カ月に1度、味を変えるようにした。ほかにも、おでん鍋の中に串を並べ、増える“家飲み需要”に対応して、おでんをつまみとして買ってもらう施策にも取り組んでいる。

「12月から2月は、おでんを含めて家庭での鍋料理の消費が増えます。だから、反比例して寒い冬は当社のおでんの需要が落ちるんです。この時期に売り上げが取れていないのは、変わった感が出せていない、つまり消費者を飽きさせているともいえます。そこは1つの大きな課題ですね。“串ものシリーズ”も、見た目を変えることで消費を喚起したい。家飲み需要のみならず、店頭のおでん鍋の見た目を変え、変わった感で消費者が気付いてくれ、購買を誘えるのではないかと」

セブン&アイグループには、昔から役員試食会というものがある。たとえばセブン-イレブンのおにぎりや弁当、蕎麦類は、この役員試食会を通過しないと、世に出ることはない。そこまでにたくさんのチームで改良を重ね、商品部のヘッドである、セブン-イレブン・ジャパンの鎌田靖・取締役商品本部長のところでOKが出て、初めて役員試食会に到達するのだ。

もちろん、グループCEOである鈴木敏文氏も試食するし、おでん部隊で言えば、とことんこだわったつもりのつゆでも、「かつおと昆布のうま味のバランスが悪い」と、差し戻されることもあるらしい。が、そうしたトップの意見を、その日のうちに取引先や協力メーカーにフィードバックして、感覚的なものでなく、改善できる余地を数値化していくのだという。

おでん革命に、終わりという文字はないようだ。(河)

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